不妊治療ってどんなことをするの?②(生殖補助医療:体外受精、顕微授精)【医師監修】

体外受精、顕微授精

生殖補助医療とは、体外受精(cIVF)と顕微授精(ICSI)を用いて、体外で卵子と精子を受精させ、胚(受精卵)を作成し胚移植を行うことで妊娠を目指す治療です。タイミング法や人工授精と比べ妊娠率は高いですが、からだへの負担があり、通院頻度も多くなります。
ただ、生殖補助医療を受ければ必ずしも妊娠できるわけではなく、高度な技術をもってしても年齢の影響は避けられません。生殖補助医療による妊娠率は30代半ばまでは約30~40%程度ですが、35歳頃から右肩下がりとなり、39歳では20%を切り、43歳以降は10%を下回るとの報告もあります。中にはすぐに妊娠できる人もいますが、何回か治療を重ねる必要性が伺えます。
生殖補助医療は2022年4月から公的医療保険が適用され、自己負担は3割となりました。ただし、治療開始時点の女性の年齢が43歳未満であることが条件です。保険適用となる胚移植回数にも上限があり、40歳未満は1子につき6回まで、40歳以上43未満は3回までなので注意しましょう。

生殖補助医療における体外での受精方法は大きく2つあります。
体外受精(cIVF、ふりかけ法)は、シャーレ(専用のガラス・プラスチック製の小皿)の上で卵子に精子をふりかけ、受精を試みます。一方、 顕微授精(ICSI)は、顕微鏡下で形態や運動率の良い精子を1つ選別し、針で卵子に注入し受精させます。顕微授精は、良好な精子が1つでもあれば受精の可能性があるので、これまで妊娠を諦めなければならなかった重度男性不妊、無精子症の方も精巣内に生存精子が認められれば妊娠が望める治療です。

両側の卵管が閉塞している卵管機能異常、男性不妊(体外受精で受精しない重度の男性不妊は顕微授精の対象)、卵巣機能不全、タイミング法や人工受精を行っても妊娠しない不妊原因が不明なカップル、高齢の場合などです。

※病院によって通院回数や方法は異なります。
体外受精の治療フェーズは主に「採卵周期」と「移植周期」に分けられます。

採卵周期の流れ
採卵でとれた卵子のすべてが良い受精卵になるわけではありません。そのため、良い受精卵を多く得るためには、排卵誘発剤を用いて卵巣を刺激し、複数の卵胞を育て卵子を得る必要があります。卵巣刺激の方法は様々ですが、患者の卵巣機能に応じ医師が最適な方法を決定します。卵巣機能が正常な場合、一般的には10~15個前後の卵子の獲得を目指します。
通常は卵巣刺激の開始から約2週間で採卵を迎えます。採卵までの間、卵胞の発育状況のチェックなどで4~5回ほど通院が必要です(卵巣刺激を自己注射とする場合)。
採卵は、排卵直前の卵子を卵巣から取り出す手術です。経腟超音波で卵胞の位置を確認しながら、針を使って卵胞から卵子を回収します。
発生は稀ですが、リスクとして過剰に卵巣が刺激されることによる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)があります。主な症状は卵巣の腫れ、腹水、胸水などで、重症化すると腎不全や血栓症などの命に関わる合併症を引き起こし、入院治療が必要になることがあります。また、採卵による卵巣出血や感染症のリスクもゼロではありません。

~田中 佑佳先生より~
卵巣刺激のための注射は、病院でスタッフが打つか、自分で打つか選択できます。自己注射を選択するとその都度受診していただく負担がなくなります。自分で注射するのは怖いかもしれませんが、今はペンタイプの注射器も用意されています。針自体も細く使いやすいので、打ちやすくなっています。
採卵のリスクを聞いて、卵巣刺激をするのが怖くなってしまったかもしれません。しかし、1回の採卵でとれる卵子の数が少ないと採卵を何度も繰り返すことになり、費用や身体の負担は増えます。それぞれの卵巣機能に合わせてちょうどよい卵巣刺激を行い、なるべく副作用を抑えられるように調整をしていきます。また、痛みへの不安が強いときや採卵数が多い場合には、静脈麻酔を使うこともあります。
通常、採卵は朝から始まり昼頃には帰宅できますが、鈍痛や麻酔の影響が残る可能性もあるので、当日は念のため仕事を休んで頂くか、自宅でできる仕事に切りかえることをおすすめします。採卵後は痛み止めを使用することもできるので、遠慮せずにスタッフに伝えていただいて大丈夫です。
また、採卵前〜採卵日〜次の月経が来るまでは卵巣が腫れていることがあるので、激しい運動は控えておきましょう。

移植周期の流れ
移植周期では、まず子宮を妊娠に適した状況にした後に、凍結した胚を融解し、カテーテルに入れて子宮内に移植します。方法は、大きく分けて①ホルモンの薬を使って子宮内膜を厚くする「ホルモン補充周期」②薬を少し使う、もしくは使わずに排卵に合わせて移植する「自然周期」があります。
いずれの方法もきちんと行えば妊娠率は変わりませんが、それぞれメリット・デメリットがあります。自然周期は薬の管理・費用の負担はありませんが、排卵日を特定するために頻繁な通院が必要になるほか、胚移植日をコントロールすることはできません。ホルモン補充周期は、薬の開始日を調整することで胚移植日のコントロールが可能なものの、薬の管理・費用の負担があります。個々の事情に応じて適切な方法を選択します。

田中 佑佳先生の解説
「新鮮胚移植」といって、採卵と同じ周期に胚移植を行うことがあります。以前は胚を培養する技術や胚を凍結する技術が今ほど発達していなかったため、よく行われていました。しかしながら、卵巣刺激により多数の卵胞が育つと、通常とホルモン環境が異なるため子宮内膜の状況が着床しにくい状況になり、加えて卵巣刺激により卵巣が腫れている状況で妊娠すると卵巣過剰刺激症候群の重症化リスクが高まるため、近年は採卵して得られた胚をすべて一度凍結する(全胚凍結)を行うことが多くなっています。一方で、新鮮胚移植には凍結融解による胚へのダメージを避けられるというメリットもあります。

国内で生殖補助医療によって生まれた赤ちゃんは年間7万人超にのぼるとされ、 世界に目を向けても生殖補助医療で生まれた子の多くが成人を迎え、自然妊娠で子どもを授かっているケースも報告されています。
生殖補助医療は高齢の方が対象となることが多いため、加齢に伴う染色体異常のリスクは避けられません。一方で、体外受精や顕微授精といった医療技術そのものが、胚や胎児にどのような影響を及ぼすかについても、多くの研究が行われています。現時点では、大多数の研究において、これらの治療を受けて出生した子どもの健康状態は自然妊娠と同等であるとされていますが、引き続き長期的な追跡が必要とされています。

田中 佑佳先生のコメント
IVFやICSIでは、受精・発生初期に人工的な操作が加わるため、遺伝子の発現調節(エピジェネティクスといいます。遺伝子のオン/オフのスイッチみたいなもの)に影響を与える可能性が指摘されています。具体的には、インプリンティング疾患(例:Beckwith-Wiedemann症候群、Angelman症候群など)との関連が報告されているものの、発症頻度は非常に低いです。また、ICSIは運動性の低い精子や形態異常精子でも使用されることがあるため、本来なら自然淘汰されるはずの遺伝情報が次世代に伝わる可能性が指摘されています。特に男性不妊の原因が遺伝的(例:Y染色体欠失)である場合、その子どもが男児であった場合には男性不妊が遺伝する可能性があります。
生殖補助医療は非常に有効な治療ではありますが、それぞれの治療の適応の有無をしっかりと判断することが大切だと考えています。

さまざまな色の星型のイラストが描かれています。
医師がクリニックの中でカメラに向かって微笑んでいる写真

<監修いただいた先生>
田中 佑佳(たなか ゆか)先生
日本産婦人科学会 産婦人科専門医/日本生殖医学会 生殖医療専門医/日本スポーツ協会認定スポーツドクター/日本医師会認定産業医

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